建築物環境衛生管理技術者(ビル管理士)とは|受験資格の実務経験・登録講習会・選任義務

オフィスビルや商業施設、病院など、大勢の人が働き、利用する建物では、空気の質や飲み水の衛生、清掃の状態などが一定の水準に保たれている必要があります。こうした建物の衛生的な環境を維持管理する専門家として、法律で位置づけられているのが建築物環境衛生管理技術者です。

本記事では、建築物環境衛生管理技術者(通称:ビル管理士、ビル管)について、厚生労働省と実施機関である公益財団法人日本建築衛生管理教育センターの一次情報をもとに解説します。受験資格や試験の内容に加えて、試験に合格する以外にも資格を取得できる「登録講習会」という仕組みにもふれます。

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1. 建築物環境衛生管理技術者の全体像

建築物環境衛生管理技術者を理解するうえで外せない3つのポイントを、最初にまとめておきます。

  1. 特定建築物の衛生的な環境を維持管理する国家資格:厚生労働省が所管し、建築物における衛生的環境の確保に関する法律(建築物衛生法)に基づく資格です。実施機関は公益財団法人日本建築衛生管理教育センターです
  2. 受験資格に実務経験2年以上が必要:現場エンジンで紹介しているビルメンテナンスに関する資格の中では、受験の時点で実務経験を求められるのはビル管理士だけです
  3. 試験に合格するほか、登録講習会を修了しても資格を取得できる:法律上、試験合格と登録講習会の修了は、どちらも免状交付につながる正式なルートです。ただし登録講習会にも学歴・実務経験等の受講資格があり、誰でも無条件で受けられるわけではありません

2. 建築物環境衛生管理技術者は特定建築物の衛生管理を担う国家資格

オフィスビルの空調・給排水・清掃といった衛生環境は、誰かが継続的に管理しているからこそ保たれています。この管理を法律上担う専門家として位置づけられているのが、建築物環境衛生管理技術者です。

正式名称は「建築物環境衛生管理技術者」で、「ビル管理士」「ビル管」は現場でよく使われる通称です。本記事でも、以降は読みやすさのため「ビル管理士」という通称を交えて説明します。

根拠法は建築物における衛生的環境の確保に関する法律(通称:建築物衛生法、ビル管理法)です。この法律は、多数の人が使う一定規模以上の建物(特定建築物)について空気環境・給排水・清掃などの衛生管理基準を定め、その維持管理を担う専門家として建築物環境衛生管理技術者の選任を義務づけています。所管は厚生労働省で、試験・登録講習会の実施は公益財団法人日本建築衛生管理教育センターが行っています。

「特定建築物」に該当するかどうかは、延べ面積で決まります。

建物の種類 特定建築物となる延べ面積
学校教育法第1条に規定する学校(幼稚園・小中学校・高校・大学など) 8,000㎡以上
上記以外の建物(オフィスビル・店舗・ホテル・病院など) 3,000㎡以上

(出典:建築物衛生法施行令)

この延べ面積の基準に達する建物の所有者等は、後ほど説明するとおり、建築物環境衛生管理技術者を選任する義務を負います。

3. 受験資格と試験の概要

3.1 受験資格

建築物環境衛生管理技術者試験を受けるには、特定建築物などの建築物における環境衛生上の維持管理に関する実務に、2年以上従事した経験が必要です。具体的には、空気調和設備の管理、給排水設備の管理、ボイラ設備の管理、電気設備の管理、清掃、ねずみ・昆虫等の防除といった、建物の衛生的な環境を維持するための実務が対象になります。

この「受験資格に実務経験が必要」という点は、ビルメンテナンスに関する資格の中でも、ビル管理士に特徴的な仕組みです。この後、他の資格との違いをあらためて整理します。

3.2 試験科目と出題形式

試験は7科目、合計180問で構成され、五肢択一のマークシート方式で行われます。試験時間は午前・午後それぞれ3時間です。

時間帯 科目 問題数
午前(3時間・90問) 建築物衛生行政概論 20問
建築物の環境衛生 25問
空気環境の調整 45問
午後(3時間・90問) 建築物の構造概論 15問
給水及び排水の管理 35問
清掃 25問
ねずみ、昆虫等の防除 15問

(出典:公益財団法人日本建築衛生管理教育センター)

3.3 合格基準

合格基準は、科目ごとの得点が各科目の満点の40%以上であり、かつ、全科目の合計得点が満点180点の65%以上(117点以上)であることです。得意科目で高得点を取っても、1科目でも40%を下回ると不合格になる、科目ごとの足切りがある方式です。

(出典:公益財団法人日本建築衛生管理教育センター「合格基準」)

3.4 受験料と試験日程

受験料は17,900円(非課税)です。試験は年1回、例年10月ごろに全国で実施されます。

なお、受験料・試験日程は変更される場合があります。最新の情報は公益財団法人日本建築衛生管理教育センターの公式情報でご確認ください。

4. 試験合格のほかに、登録講習会を修了する取得ルートもある

4.1 試験と並ぶ、もう一つの取得ルート

建築物環境衛生管理技術者の免状を取得する方法は、試験に合格することだけではありません。建築物衛生法には、免状交付の要件として「登録講習会の課程を修了した者」と「試験に合格した者」の2つが、法律上並んで規定されています。つまり試験は唯一の入口ではなく、登録講習会を修了するというルートも用意されています。

ただし、登録講習会は誰でも無条件で受けられるわけではありません。受講するには、学歴・実務経験・保有している他の資格などの組み合わせによる受講資格(区分1〜11のいずれか)を満たす必要があります。たとえば理系の大学等を卒業していれば実務経験1年以上、工業高校卒業なら5年以上といった具合に、区分ごとに必要な実務経験の年数が定められています(医師や一級建築士など一部の資格保有者は、実務経験なしで受講できる区分もあります)。「試験より気軽に取れる」ルートではなく、講習にも別の形で経験や資格が問われる点は押さえておく必要があります。

4.2 講習の内容・受講資格・費用

講習の内容は、試験と同じ7科目にわたる合計101時間です。開講期間中の平日・土曜日を使って実施され、期間はおおむね3週間程度にわたります。受講料は129,000円(非課税・教材費込み)で、講習の最後に実施される修了試験(100分)に合格すると、修了証書が交付されます。

受講資格の区分の中には、ビルメンテナンスに関する他の資格の保有者向けのものもあります。たとえば電気主任技術者(電験三種など)やボイラー技士、冷凍機械責任者の免状を持っていると、実務経験の必要年数が短縮された区分で受講できます。すでにこれらの資格を持っている方にとっては、登録講習会も検討できる選択肢になります。

4.3 二級ボイラー技士・第三種冷凍機械責任者との違い

同じビルメンテナンスに関する資格の中にも、試験の負担を軽くする仕組みを持つものがあります。たとえば二級ボイラー技士は試験合格に加えて実技講習が別途必要で、第三種冷凍機械責任者は講習を受けることで試験科目の一部が免除されます。ビル管理士の登録講習会は、これらとは違い、修了すれば試験を受けずに免状そのものを取得できる点が特徴です。

5. 免状の交付と、特定建築物への選任義務

試験に合格した場合も、登録講習会を修了した場合も、それだけで自動的に資格者になるわけではありません。合格または修了のあと、必要書類とともに申請することで、厚生労働大臣から建築物環境衛生管理技術者免状が交付されます。

免状を取得したあとの話として重要なのが、特定建築物への選任義務です。建築物衛生法により、特定建築物の所有者等は、免状を持つ者の中から建築物環境衛生管理技術者を選任しなければなりません。選任は特定建築物ごとに行う必要があります。

選任の実務上のニュアンスとして、厚生労働省は「選任」について、所有者等との間に委任関係などの法律上の関係があれば足り、常駐や専属の身分関係までは必ずしも必要ないと説明しています。また、令和4年4月の制度改正により、1人が同時に2つ以上の特定建築物の管理技術者を兼ねることも、業務の遂行に支障がないことを確認したうえでなら可能になりました。

選任義務に違反した場合は、30万円以下の罰金が定められています。

6. ビルメンテナンスに関する資格の中でのビル管理士の位置づけ

これまで現場エンジンで紹介してきたビルメンテナンスに関する資格には、「4点セット」と呼ばれる第二種電気工事士・二級ボイラー技士・第三種冷凍機械責任者・危険物取扱者乙種第4類、そして「3種の神器」と呼ばれる電験三種・ビル管理士・エネルギー管理士があります。

4点セットの4資格、そして3種の神器のうち電験三種・エネルギー管理士は、いずれも受験資格なし(誰でも受験できる)で、未経験からでも入口に立てる資格です。ただしエネルギー管理士は、免状の交付を受けるには実務経験1年以上が必要になります(エネルギー管理士については別記事で扱う予定です)。これに対してビル管理士は、これまで見てきたとおり、受験する時点で実務経験2年以上が必要です。実務経験が問われる段階は、資格によって異なります。

資格 受験資格 実務経験が必要になる段階
4点セット(電気工事士・二級ボイラー技士・第三種冷凍機械責任者・危険物乙4) なし なし、または免状交付の段階(二級ボイラー技士のみ実技講習等)
電験三種 なし なし(試験・免状とも不要)
エネルギー管理士 なし 免状交付の段階(実務経験1年以上)
ビル管理士 実務経験2年以上が必要 受験の段階

(出典:各実施機関公式情報を整理)

このように、ビル管理士は一般的には「未経験からの入口」ではなく、すでに設備管理の実務経験を積んだ人が次のステップとして目指す資格という位置づけになります。ビルメンテナンスに関する資格の全体像は、ビルメンの資格とは|4点セット・3種の神器と未経験からのキャリアアップ でまとめています。

7. 紛らわしい資格との違い

名称が似ているため混同されやすい資格として、マンション管理士とビル経営管理士があります。

マンション管理士は、国土交通省が所管する国家資格で、マンションの管理組合等に対して法律や管理運営の助言を行う資格です。受験資格なし(誰でも受験できる)で、ビル管理士のような選任義務もありません。

ビル経営管理士は、国土交通省に登録された民間資格で、ビルの経営や不動産の運用に関する知識を認定するものです。国家資格ではなく、建物の衛生管理を担うビル管理士とは役割が異なります。

資格 所管・区分 選任義務 受験資格
建築物環境衛生管理技術者(ビル管理士) 厚生労働省・国家資格 あり(特定建築物) 実務経験2年以上が必要
マンション管理士 国土交通省・国家資格 なし なし
ビル経営管理士 国土交通省登録・民間資格 なし 各認定団体の要件による

いずれも名称に「管理」「ビル」が含まれますが、所管も役割も異なる別の資格です。

8. 学習方法・難易度・教育訓練給付金

8.1 学習時間の目安と合格率

ビル管理士試験は、建築物衛生行政概論から空気環境の調整、給水及び排水の管理、清掃、ねずみ・昆虫等の防除まで、7科目にまたがる幅広い出題範囲があります。科目ごとの足切りがあるため、得意な科目に偏らず、7科目すべてを一定水準まで仕上げる学習が求められます。

公益財団法人日本建築衛生管理教育センターと厚生労働省の公表によると、令和7年度(第55回)試験の合格率は30.6%(受験者7,131名・合格者2,180名)でした。

(出典:公益財団法人日本建築衛生管理教育センター、厚生労働省)

8.2 通信講座と教育訓練給付金

ビル管理士の対策には、独学のほか、通信講座を活用する方法もあります。通信講座の中には、厚生労働省の教育訓練給付制度の対象になっているものがあります。対象講座を受講して修了すれば、受講料の一定割合が支給されますが、対象講座は時期によって変動し、対象者にも雇用保険の被保険者期間などの要件があります。対象講座や自分が対象かどうかの調べ方は、別記事でまとめています。

教育訓練給付金 完全ガイド

9. よくある質問(FAQ)

Q:試験を受けるのと、登録講習会を受けるのと、どちらを選ぶべきですか?

A:すでに実務経験や関連資格を持っていて登録講習会の受講資格を満たせる方にとっては、講習会は国家試験を受けずに、講習(101時間)と修了試験(100分)を経て免状を取得できる選択肢になります。一方、受講資格を満たさない方や、講習の日程・費用より試験の受験料を抑えたい方は、試験を受けるルートを選ぶことになります。どちらも建築物衛生法に定められた取得方法で、優劣があるわけではありません。

Q:受験資格の「実務経験2年」は、具体的にどんな仕事が対象になりますか?

A:特定建築物などにおける、空気調和設備の管理、給排水設備の管理、ボイラ設備の管理、電気設備の管理、清掃、ねずみ・昆虫等の防除といった、建物の環境衛生上の維持管理に関する実務が対象です。自分の実務経験が対象になるかどうかの判断に迷う場合は、実施機関への確認が必要になることがあります。

Q:1人で複数のビルの管理技術者を兼任できますか?

A:令和4年4月の制度改正により、業務の遂行に支障がないことを確認したうえでであれば、1人が2つ以上の特定建築物の管理技術者を兼ねることができるようになりました。

Q:マンション管理士とは何が違いますか?

A:マンション管理士は国土交通省所管の国家資格で、マンションの管理組合等への法律・運営面の助言を行う資格です。受験資格はなく、選任義務もありません。ビル管理士は厚生労働省所管で、特定建築物の衛生管理を担い、選任義務がある点が異なります。

10. まとめ

本記事では、建築物環境衛生管理技術者(ビル管理士)を、厚生労働省・公益財団法人日本建築衛生管理教育センターの一次情報をもとに解説してきました。

ビル管理士は、特定建築物の衛生的な環境を維持管理する国家資格で、受験資格に実務経験2年以上が必要な点が、ビルメンテナンスに関する資格の中でも他にない仕組みです。試験に合格する以外に、登録講習会を修了して免状を取得するルートもあります。免状取得後は、特定建築物への選任義務が発生します。

3種の神器のうち、電験三種に続いてビル管理士も紹介しました。残るエネルギー管理士については、別記事で扱う予定です。

これから受験を検討している方にとって、本記事がその判断の材料になれば幸いです。

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出典


文責:現場エンジン編集部